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人工無脳「会話くん」とのチャットの記録

 botから発展して人工無脳の話題にさせていただきます。

 最近ですとmixiで活躍する「酢鶏」が人工無脳(人工知能に対し、役に立たないコンピューターという意味で、人工無脳となった。人工「無能」が使われていたこともある)として有名ですが、チャットの相手をしてくれる自動応答型会話ロボットの歴史は古く、1966年には「ELIZA」という会話システムが登場し、チャットの相手を務めてくれたらしい。

 日本でもパソコン通信が始まった1985年頃には、アスキーネットなどを舞台に、多数の人工無脳が誕生し、人工無能と人工無脳がチャットするコンテストが開催されたりもしました。

 その後、このシステムは、メジャーな商用パソコン通信サービスにも組み込まれるようになりました。

 以下の文章は、小生が1995年に上梓した『サラリーマンのためパソコン入門講座〈殺人篇〉』というユーモアミステリー小説中の一部です。

 登場人物のひとりが、当時のパソコン通信サービス「ニフティサーブ」にあった『会話くん』という人工無脳(コンピューターがチャットの相手をしてくれる自動応答プログラム)と会話した状況を書いたものですが、この会話の部分は、実際のチャットのログをそのまま使っています。

「 」で囲まれた部分は、登場人物(初老の男性)になったつもりで作者が打ち込んだものです。
『 』で囲まれた部分は、実際の「会話くん」の発言と応答です。

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 そのサービスをマウスで選ぶと、すぐに“会話くん”の画面に切り替わった。案内を読むと、コンピューターが会話の相手をしてくれると書かれている。清水は半信半疑ながらサービスに入ってみた。
 最初に名前を入れる。ここでも名前は“玉将”にした。
『いいよ、何か話そう』
 名前を入れたとたん、いきなり画面に文字が出てきた。
 清水は、いささかあわてながら、「こんばんわ」とキーを打った。
『あいさつは、人間関係の基本です』
 いきなりコンピューターが、こんな返事をしてきた。清水は少しムッとなりながらキーを叩いた。
「私が年寄りだと思って馬鹿にしてませんか?」
『いじめないで下さい』
「いじめているのは、あなたのほうでしょうが」
『どこで採れたしょうがが好きですか 玉将さん』
 どうもこのコンピューターは、ダジャレで清水を煙に巻こうとしているようである。次第に腹が立ってきた清水は、コンピューターに負けてなるものか、とダジャレで反撃に出ることにした。
「しょうがないことばかり言うな」
『私は、しょうがが好きです』
 清水は“しょうが”から寿司のガリを発想し、即座にキーを打った。
「私は寿司が好きです」
『どんなときに、寿司が食べたくなりますか』
「嬉しいときです」
 まともに応えてしまってから、しまった、と思ったが、コンピューターの側から話題を変えてきた。
『あなたは、社会人ですか?』
「そうです」
『ふーん、あなたは、社会人なんだ』
 コンピューターのくせして、どうも会話の相手を小馬鹿にする傾向があるようだ。清水は、またもや、むかっ腹が立った。
「文句あるのか」
『職場で好きな人は誰ですか?』
 またコンピューターが話題を変えてきた。自分の形勢が不利になると、話題を変える傾向もあるらしい。
「いません」
 そっけない返事を返すと、コンピューターは話題を変えてきた。
『仕事が辛いなと思うのはどんなときですか?』
「いつも辛いです」
『四川料理は辛いです』
 コンピューターは、“辛{つら}い”を“辛{から}い”に読み替えてきた。清水は、なんとか相手のコンピューターをやり込めてやろうと、やっきになりながらキーを叩いた。
「カレーのほうが辛いです」
『カレーは辛いのが常識です』
 ――くそおおおッ!
 清水は血圧が上昇するのを自覚した。
 ――これならどうだ!
「甘いカレーもあります」
『誰の作ったカレーが、一番おいしいですか』
 コンピューターは、やりこめようとすると、まるでその意思を見透かしたかのように、話題をはずしてくる。敵は手強いぞ――清水は、気を取りなおしながらキーを叩いた。
「娘です」
『娘の趣味は、何ですか』
「仕事です」
『仕事はうっとおしいです』
「梅雨もうっとおしいです」
『今年は、雨の日が多いですか?』
「多いですね」
『多いってどのくらい』
「たくさん」
『たくさんのものと言えば』
「いずみたくさん」
『たくさんのものと言えば』
「ピンキーとキラーズ」
『ピンキーとキラーズってなあに?』
「歌のグループです」
『ピンキーとキラーズは、歌のグループですね』
「そうです」
『やっぱり』
 ここで言葉に詰まり、しばらくキーを叩かないでいると、いきなりコンピューターがクイズを出してきた。
『よく人を騙すのではないかと、疑われている鳥は?』
「九官鳥」
『いかさま師や、ペテン師をこう言いますよ』
「さぎ」
『当たりです、良く解りましたね』
「ばか」
『あなたは、ばかですか?』
「おまえがばかなんだ!」
『なんだと言われても』
「なんだかんだのムダづかい」
 論旨がめちゃくちゃになってくると、さすがのコンピューターも困惑するらしく、また話題を変えてきた。しかも、へりくだってだ。
『あなた様は、社会人ですよね』
「そうだ。文句あるか」
 清水が尊大な態度で答えると、コンピューターも態度を変えた。
『君は、社会人ですよね』
「うるさい。お前に君呼ばわりされる覚えはない」
『ふざけないで、なかよくしようよ』
「ふざけてるのはお前だ」
『ふざけてるってなあに?』
「調子にのるな!」
『ふざけてるは、調子にのるなですね』
 ――むぐぐぐぐ……!
 清水は、このままでは高血圧で倒れてしまうと思い、いきなりパソコンの電源を切った。
(ここまで)
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 こうしてみると、この『会話くん』というチャットシステム、かなりよくできていたんじゃないんですかね。

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